「エリア88」を思い出したよ

[女性9条の会:平和憲法守りたい 被爆者、弁護士学者ら集い発足 /広島:MSN毎日インタラクティブ]

「生命を生み出す私たちだからこそ…」

エリア88」終わり頃にそういう話ありましたね。

P4《プロジェクト・フォー》の男:世界人口の半分以上が女性だということを忘れると大変な事になるぞ。まして女は男とちがって人種・国境・主義・思想を別にして共通の信念を持っている…
神崎:なんだ? それは…
P4の男:子供を産み育てるという事だ… こればっかりは男が逆立ちしたってできることじゃない。
神崎:女どもの出産と我われの戦争とどう関係あるんだ!?
P4の男:まだわからんのか!? 女は子供を産むという行為に対して東側も西側もないんだ! 我われのようにむずかしい理屈をこねたスローガンはいらない!!
世界中の女性たちに呼びかける涼子:世界中の女性に… 母に…そしてこれから母となる女性《ひと》に… 愛は女の本能です…

新谷かおる, 『エリア88(10)』, 少年サンデーコミックス〈ワイド版〉, p124-125.

読んだとき、背中に怖気が走ったのを覚えています。中学生か高校生ぐらいの素直なころに読んでいたら感動できたかもしれませんが、読んだの最近なんですよね……。
作者様が女性に聖性や母性といったものを無邪気に求める姿がそこにあって……。いえ、ある程度までなら僕もそういうの好きなんですよ。好きって言うか、大好きです。現実にいうとダメなことでも、絵空事の世界ではもーまんたい。男にとってやたらと都合の良いハーレムアニメとか、ハーレムマンガとかにやにやしながら観てます、読んでますしね*1。だからステロタイプな女性キャラになんじゃそりゃというようなことを言おうとは思いません。ただ……、やっぱそれも程度の問題で、「エリア88」終盤の女性連帯の話は、女性に対する夢というか妄想というかが、僕が楽しめる限度を超えていたというか……。子供を産むというのは女性の共通点でしょうが、それ以外のことで、いくらでも利害が対立するでしょって思っちゃって……。本人同士じゃなくても、生んだわが子にからむ利害が、他人の子の利害とぶつかって一悶着なんてのもあるでしょう。わが子の敵を"massacre"って考え方にいっちゃってもなんちゃおかしくないわけです。そういや、チンパンジーの雌なんか、わが子のライバルになりそうな子チンパンジーを殺して食っちゃったりしますね。結局、涼子の言っていることも理屈というか、正義という大看板を打ち立てたスローガンなんですよね。理屈として難しくはないってだけで。さらには戦争への反対という背景を持っているわけで、たぶん、涼子のスローガンにはちょっとした反論すら許されないことでしょう。おかしいんじゃないのって言おうものなら、戦争肯定の人悲人です。ある意味理屈をこねたスローガンより酷いですよ?
エリア88」、おもしろい作品で、時々読み返す作品なのですが、シリアスに決めていたのに、いきなりギャルゲー、エロゲーよりも女性に夢(妄想?)を見過ぎる話が飛び出してきて、これで負けたんじゃあ神崎もうかばれんわなあ……と、神崎があわれになりました。神崎は女性をまともに扱わない男で、その手のキャラが自分の行いのしっぺ返しみたいな形で負けるのは、たいがいの話において胸がすくもの……のはずなんですが*2、敗北に至る原因の一つが気色悪くて、今ひとつカタルシスを感じられませんでした。女性たちが、もうすこしなまぐさい連帯の仕方をしてくれたなら、こりゃあ、神崎の負けだなあって思えたのに……。
マンガから現実の話に戻りますと、上の記事では、男性作家の手による「エリア88」と違って、女性自身が「生命を生み出す私たちだからこそ…」みたいなことを言っているわけですが……。結婚しなかったり、子供を産まないという選択をする女性も増えてきている昨今、そういう人たちはガン無視ですか? 男の側から女性への聖性や母性の押しつけってのはよくあることで、自分は他人様のことを批判できるような立派な人間じゃないんですが、度を超えているのを見るとやっぱり気色悪いし、もう、やめろよとか思います。ここでは女性の側がそういうのを無邪気に持ち出していて、実に気色悪いです。

*1:昔とちがって受け付けないものも増えてきたけれども……。歳食ったなあ……。

*2:たとえば、「からくりサーカス」の白金には是非とも惨めな敗北をしていただきたいと思っております。