わかる人にしかわからないと思います

注記(2006/06/02)
トラックバックをいただいた先の記事をきちんと読まずに書いていました。書いた内容自体は大きく間違っていないと思いますが、元の記事への返事としては的をはずしています。

ェミニズムやジェンダーを勉強したことのある人の中でも常識とは言えないようなことを、なんの注釈もなしに書いてしまっているこの文章は不親切な悪文だろうと思います。

のあたりをきちんと読めていなかったというか、頭がゆだっていてきちんと心に入ってこなかったというか……。上の文章は僕が書いている「ただ、そうは考えても、一般の人にわかって貰わなければならないわけで、研究者でなければぴんとこない、表現はつかわないにこしたことはないと思います。」と同じことなわけで……。
もうちょっと落ち着いて人様の文章を読もうと思います。

(以下、本文)
トラックバックいただいているので、返してみる。
[木々ノ日記@livedoorblog:ジェンダーがセックスを規定するとはどういうことか - livedoor Blog(ブログ)]
考えたのは前半の「コメントが長くなったのでTB」あたりの話だけ。

[大隅典子の仙台通信 : 「ジェンダー」は必要か?]にコメントを投稿なさったmoricoroさんのblogのようですね。

すなわち、性に関する知識を作り上げる営みそのものがジェンダーであり、云々、というような立場もあったように思うので、そういった理論の紹介として「むしろ、ジェンダーがセックスを規定している、という指摘」という表現をしたんだと思います。

この手の考え方は知っています。
たとえば、ジェンダーと科学を扱った本を読んでいたときに、ダーウィニズムに触れているところがありました。ダーウィンにはヴィクトリア朝の男性としての偏見が存在した云々、それがダーウィニズムにも影響を与えている云々といったようなことが書かれていました。これなんか当時の社会通念、社会の常識が生物を見る目線に影響を与えているっていう考えで、上と似た(上と同じと言ってもいいか?)考え方でしょう。そして、それは正しいと思います。ただ、「むしろ、ジェンダーがセックスを規定している」という言葉には「影響を与えている」といった穏当な話じゃなくて、セックス(生物学的性)というものの考え方、広く見ると生物学や自然科学が、社会の常識に完全に(もしくは非常に強く)従属するかのような言葉に読めてしまうのです。わけがわからない人間の性というものを「男が基本で、女はその派生物だ」とか言っていた時代もあるそうですが*1、科学やら哲学(科学も昔は自然哲学だったそうですが)やらの発展にともなって社会の常識が変わった部分もあるわけで*2、どうにも上のようなきつい言葉は受け入れがたいものがあります。
考え過ぎと思われるかもしれませんが、ジェンダーの概念を生物学で補強しようとしている人の中に、相当むりくりなやり方、悪質といってもいいんじゃないかってやり方で生物学を利用している人がいて、考え過ぎと思えなかったりします(なお悪質とは書きましたが、専門外の話だからきちんと理解していないか、生物を倫理と道徳の目を通して見ている*3から理解が歪んでいるとか、そんな話で、わざと悪用しているのではないとは思います)。また、中にはジェンダーがセックスの考え方を左右するのだから、セックスという言葉はなくてもいい、全部ジェンダーでいいという極論が入門書に書かれていることもあります(『図解雑学ジェンダー』)。ジェンダーという概念は有用だと思いますが、それを広めようという人たちの言葉がどうしようもなくうさんくさいことがあります。ひどい書き方をするなら、エセ科学一歩手前じゃないのかと思わされることがあります。そういうの勘弁して欲しいです。
ただ、別方向から考えると、「むしろ、ジェンダーがセックスを規定している」というのは、ジェンダーやら研究している人が同じような研究者に向けて言った言葉だと思います。「むしろ、ジェンダーがセックスを規定している」あたりって、たぶんジュディス・バトラージェンダー・トラブル」の「セックスはつねにすでにジェンダーなのだ」(だったかな?)あたりからかなあなんて思うわけですが*4、あの本は一般書じゃない*5わけで、そこで出てくる言葉は当然研究者向けでしょうし、わかっている人が読めば腑に落ちるのだろうとは思います。自分の研究分野において何かぶちあげるのは人の常、プレゼンテーションの時に自分(もしくは、自分たち)のやっていることを売り込むため大きな事を吹き上げるのは当然のこと、やらない方がおかしい。そのために少々強い言葉を使ってるのだろうなと思わないでもありません。ただ、そうは考えても、一般の人にわかって貰わなければならないわけで、研究者でなければぴんとこない、表現はつかわないにこしたことはないと思います。

なお、[木々ノ日記@livedoorblog:ジェンダーがセックスを規定するとはどういうことか - livedoor Blog(ブログ)]に対して反論している記事として、
[学問][読書]二つの文化とジェンダー論 (1)
http://d.hatena.ne.jp/Leiermann/20060116/p1

[学問][読書][blog]二つの文化とジェンダー論 (2)
http://d.hatena.ne.jp/Leiermann/20060529/p1

を紹介しておきます。科学と社会の関わりについて僕が舌っ足らずに書いていることが、もっとうまく説明されています。

*1:ワンセックスモデルと言うんでしたっけ?

*2:例えば、ダーウィニズムなんかは、ものの考え方に大きな変化を与えたわけです。悪い例ですが、ダーウィニズムを手前勝手に援用した優生学みたいなものに世界の多くの国々(本邦含む)が浮かれた時代もあるわけですしね……。

*3:ここの意味わからない人いるかもしれないけれども、今はおいときます。

*4:僕も読んだ文献少ないので、もっと有名なのがありましたら、教えてください。

*5:ジェンダー・トラブル」は一般書じゃありませんよね? あれが一般書だったら、一般書で挫折したのかとちょっと泣けてきます。使われている用語が独特すぎて読み通せませんでした。あの手の言葉遣いをもうちょっと学ばないと読めそうにありません。