ジーン・マックウェラー「レイプ《強姦》 異常社会の研究」

レイプにまつわる神話を崩したとされ(実際にはメナケム・アマー「婦女暴行のパターン」の方がその言葉にふさわしいのかもしれません)、ところどころで著名を目にする本です。ただ、神話を崩した本が、新しい神話となるのは往々にしてあることで、本著にはそういう臭いが感じられましたので、ネット通販できる古本屋で取り寄せてみました。
まず、ざっとした感想だけ書いておきます。
レイパーへの怒りが抑えられなくて、不注意な論考や無茶な決めつけが目立ちます。また、全編を通して「レイプは性欲が引き起こすものではないく男の攻撃性が引き起こすもの」ということを強弁したくて理論展開がかなりねじれています。性欲が原因だとすればすっと腑に落ちるものを、性欲以外の理由をでっちあげるためにかなりアクロバティックな話の展開が見られます。
黒人や低所得層に対する偏見がそこかしこに見られます。人権をうたう人が他者への偏見まるだしのことを書きまくっているのはどうなの?と思わされます。とくに黒人への偏見については、訳者が後書きで著者は黒人への偏見を持っていないかのように書いていますが、逆に、ああ、あなた(訳者)も著者の黒人への偏見を感じ取ったからわざわざそんなこと書いたのですねと、そんな風に思わされました。
男性側が女性の性欲を勝手に決めつけて好き勝手いうことには強い批判を加えていますが、女性であるマッケラー(何故マッケラーと表記するかは後述)さん自身はというと男性の性欲を勝手に決めつけて好き勝手言っています。なんとも素晴らしい二重規範です。
なんというか、突っ込みどころが多すぎて疲れる本です。
本文から引用しながらのきちんとした批判はいずれやろうかと思います。古い本ですから、今更批判する意味は無いのかもしれませんが、たまに持ち出す人を見かけるので批判もまったく無駄なことじゃないだろうとは思います。あまり時間もありませんから、こつこつと。結構気合いがいりますから、今年中におわればいいなあ、なんて思います。気合いが入らなくて面倒になったら止めますが。
なお、強姦の動機にからんだ話はげんなりするものが多いのですが、それ以外は参考になる部分が多く、ただのトンデモ本ではないことは書いておきます。そして、レイパーへの怒りやレイプ被害者への共感など、著者は誠実で善良な方だと思います。少々偏見を持っている部分もあるように思いますが、少なくとも女性問題に関しては誠実で善良な人物でしょう。ただ、著者が誠実で善良であっても、理論的に正しい本を書けるわけではありません。

以下は、メモ。

ジーン・マックウェラー(著), 権寧(訳), 「レイプ《強姦》 異常社会の研究」, 現代史出版界, 1976.

本著は、

Jean Scott MacKellar, "Rape: The Bait and the Trap : A Balanced, Humane, Up-To-Date Analysis of Its Causes and Control", Crown Publisher, Inc., New york, 1975.

の邦訳です。MacKellarをマックウェラーとするのは、発音がマックウェラーに近くなるとかそんな理由があるのかもしれませんが、カタカナ表記ではマッケラーと書いて欲しかった。僕はマッケラーと表記します。

Rape: The Bait and the Trap : A Balanced, Humane, Up-To-Date Analysis of Its Causes and Control

Rape: The Bait and the Trap : A Balanced, Humane, Up-To-Date Analysis of Its Causes and Control

序文で紹介されているメナケム・アマー「婦女暴行のパターン」は、
Menachem Amir, "Patterns in forcible rape", University of Chicago Press, Chicago, 1971.
ですね。邦訳はないようです。後書きではタイトルが「強姦のパターン」と訳されています。訳語は統一してほしいけれども、まあ、たいした疵じゃありませんね。

Patterns in Forcible Rape

Patterns in Forcible Rape