「やおい」研究の本 - 「女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密」

やおいを扱った本をあまり読んではいませんが、キャスリン・サーモン(著)、ドナルド・サイモンズ(著)、竹内久美子(訳)「女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密」は面白かった。日本のやおいについて触れているところも、ちょっとだけありますが、基本的には欧米の話です。とはいえ、やおいやスラッシュを好む心理、その細部は違っても大筋は同じと考えてもいいんじゃないかと思います。
キャスリン・サーモンは進化心理学の博士号取得のための実地研究の一つにおいて、自分が愛する「スラッシュ小説(「やおい」をアメリカでは「スラッシュ」と言うそうです)」を研究対象とし、性にまつわる心理の進化について多くの著作をものしているドナルド・サイモンズの指導の元で研究を進めたそうです。「女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密」は、その実地研究や以降の研究の成果をまとめたものになるのでしょう。ドナルド・サイモンズはキャスリン・サーモンに実地研究の指導教官になってほしいと頼まれて、それまでまったく知らなかったスラッシュ小説の世界を知ることになります。内容に困惑したり、性心理を考える上で面白い題材だとはまったりしたそうで、なんというか研究者の鏡です。キャスリン・サーモン自身も、スラッシュ小説をゲイの人に見せてみたり、ゲイの人が好むポルノを見せてもらったりと、実に探求心に富む人物です。
そういうお二人の著書は、非常に面白くて、考え方としてもかなり妥当なものに思えました。

スラッシュ小説そのものへの言及じゃないんですが、男女の性心理や、その違いについても触れられています。その中に男が娼婦を買う心理への言及があり、それは以下のようなものです。

男が娼婦のサービスを買うとしたら、彼はただセックスすることに対して金を払うのではない、関わりあいや義務、口説いたり求愛したり、おしゃべりしたり、またしてや相手の気を惹くために何かを買ってプレゼントする、などということのないセックスに対し、金を払うのである。
数年前、ロサンゼルスで、さる高級売春組織が摘発され、金も権力もある顧客のリストの一部が明らかになったことがある。そこで一つの疑問が沸いてきたのだ。いったいどうして、ビバリーヒルズのどのバーにも通えて、若い魅力的な女を家に連れて帰れる、リッチで若く、ハンサムで有名な男が、女にセックス代として一五〇〇ドルも払うのだろうか? 答えは、彼はセックスそのものに対し一五〇〇ドル渡したのではなく、セックスの後で娼婦にさっさといなくなってくれるよう一五〇〇ドル払ったのだということである。

p76-77.

なんとも身も蓋もないというかなんというか、ここの部分だけでも僕は拍手喝采です。男のどうしようもない部分へのきびしい突っ込みとも読めるもので、とほほ……って感じではありますが。

女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密 (進化論の現在)

女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密 (進化論の現在)