「マザー・ネイチャー」書評

沖縄タイムス2005年7月16日朝刊に長谷川真理子先生の「マザー・ネイチャー」書評が掲載されたとか。
「マザー・ネイチャー」を訳した塩原通緒さんが所属する牧人舎にてその記事が紹介されています。
マザー・ネイチャー書評
なお、牧人舎さんのページは新聞記事の画像をそのまま表示するようになっているんですが、その画像の場所の指定が間違っていて新聞記事が表示されません。上記ページのURL、http://www.bokujinsha.com/books/050716mother.htmlの"html"を"jpg"に書き換えれば画像が表示されます。
以下は新聞記事画像からテキストに起こしたものです。

マザー・ネイチャー(上・下) サラ・ブラファー・ハーディー著、塩原通緒
SARAH・BLAFFER・HRDY 1946年米国ダラス生まれ、カリフォルニア大デイビス校名誉教授

母性とは? 深く鋭い考察

 この上下二冊にわたる大著は、最後まで私を引きつけて放さなかった。私が著者ともう十五年来の友人であり、似たような研究に携わっているという特別な事情はある。しかし、それを差し引いても本書は面白い。とくに、仕事と子育てを両立させようと苦労している現在の多くの女性にとって、自分自身を考え直す新しい視点を提供してくれるだろう。
 「母性本能なんて、男社会が作りあげた神話にすぎない」というフェミニストの主張はよく聞く。生物学者の私は、「それは本当ですか?」と聞かれるたびに、それは違う、そもそもその設問自体と前提とが誤っていると答えてきたか、なかなか理解してもらえない。
 女性が自分の産んだ子を愛するようにさせる生物学的なメカニズムは存在する。しかし、存在するからと言って、それが必ず自動的に働くとは限らないのだ。この説明には今度から、本著を推薦することにしよう。
 子殺し、虐待、長時間保育。これらはみな、不自然だ、母親が悪いと非難されてきた。そこで、フェミニストの一部は一切の生物学的説明を拒否した。しかし、それは早計である。本書は、最新の進化生物学と人類学をもとに、母性と赤ん坊の進化を、深く鋭く考察している。
 子育てか仕事かで引き裂かれる女性はたくさんいる。でも、それは不自然ではない。女性はいつでも、相反する要求の間で葛藤してきたのだ。
 食欲が本能であることは、誰もが認めるだろう。しかしだからと言って、いつでもどこでも何でも、出されれば人は必ずがつがつ食べるのではない。たとえ「本能」が存在しても、それがどう発現するかは、すべて環境による。母性も同じだ。
 著者は特別に恵まれてはいたが、三人の子育てと研究を両立させるのは並大抵ではなかった。自分の専門である進化生物学は、自らの苦闘をどう説明できるのか?本書は、フェミニストであり科学者であり母親である彼女が、自分自身と科学に誠実に向き台って考察した努力の賜物である。しかも、スリルに満ちて本当に面白い。

長谷川真理子・早稲田大教授)

(修正)
牧人舎さんのページの画像の場所指定が修正されていましたので、画像の指定間違いに触れた箇所に打ち消し線をひきました。