小倉千加子「セックス神話解体新書」(読了)

1988年に単行本として出版され、1995年に文庫となった本です。僕は文庫を読みました。
小倉千加子先生の「女が生きにくい世の中をなんとかしたい!!」という想いは素晴らしいです。実話を示しながら女性の置かれている立場の不条理に憤っている部分は素直に心に入ってきます。ただ、小倉先生が本著を書いた動機は正しいかも知れませんが、内容(の多く)は正しくありません。「一般的に〜である」「平均的に〜である」と「すべて〜である」を混同していたり、データを紹介する際に背景を考えなかったり、こじつけから論を展開していたり、比較しても意味がないものを比較してみたりと、学者としてこれでいいのですか?というところが多く目につきます。「突拍子もない話は突拍子もない証拠を求める」とカール・セーガン*1は言いましたが、本著のかなりの部分がそういった突拍子もないものです。勉強になる部分や共感できる部分もあるのですが、一般書とはいえ啓蒙書のたぐいのはずなのに、全編を通して理ではなく情が勝り、情が論を歪めています。セックスにまつわる神話を解体するのではなく、別の神話を打ち立てる本です。

セックス神話解体新書 (ちくま文庫)

セックス神話解体新書 (ちくま文庫)

*1:原文、"Extraordinary claims require extraordinary evidence."。ネット上で多く見かけますが、どういうときにした発言かまでは調べていません。