いじめの損得

http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20061116/1163639946
物語で読者に嫌われる「弱いものいじめ」って、読者が心をそわせることができる相手に対するいじめが嫌われるのであって、悪人だったなら、どれだけひどい目にあわされても、読者は喝采して、すかっとした気分になるだけです。ジョジョ第6部、チョコラータがジョルノの無駄無駄ラッシュでボロボロにされるところなんかは、気持ちがすっとするシーンです。いじめの対象に対して共感を覚えなければ、自分たちの仲間にあらずと切り捨ててしまえば、いじめの音頭をとる人間を格好悪いとは思わないのじゃないでしょうか。「その辺の美的感覚は、すでに持ってる子供も多いと思うわけですよ。」とありますが、その美的感覚は、非常にフレキシブルというか、勝手なものだと思うわけで、各人の都合で発揮する対象はかなり自在に切り替えられる。http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20060306#p4 で「俺と悪魔のブルーズ」という作品の話が出ています。一人をよってたかってぼてくりまわした子供に、それはフェアじゃないとさとす父親が、フェアな男になると約束した子供に、ご褒美として黒人のリンチを一緒に見に行っても良いという。自分も読みましたが、なんとも黒いものに満ちたお話でした。これは漫画ですが、うちらが持っている、これと似た性根から発している話は、そこここで見かけます。何かひどいことがある。内容が同じであっても、心を沿わせることができる相手には同情し、そうじゃない相手には無関心、気にくわない相手ならいい気味だという*1。ありふれた話です。美意識を発揮する対象からはずれた相手をいじめるのは楽しいものでしょう。その娯楽を提供してくれるボスは、ボスとしておいていいのです*2
ただ、自殺にまで追い込んだとすると、多くの人間をまきこむ大騒動になって、結果、いじめは大きな損を招くとは思います。喜んでいじめをやっていた連中も手のひら返して、あいつにやらされたとかいいそうです。首謀者はなにがしかの罰を受けるでしょう。けれども、いじめの対象が引きこもりになって、しまいに精神病院に行ったとか、そういう騒動に発展しないような話なら、いじめをやった人間は「へぇ、そうなの」で次の瞬間には忘れてしまえます。
いじめは、いじめる側の得られるものに比べて、損はぐっと少ない。自殺やら窮鼠猫を噛むといった事態をまねいてしまうと損得が逆転しますが、行動が失敗(この場合、いじめる側から見ての話)したときに多大な損が発生するのは、よくあることです。いじめが問題なく終了(これもいじめる側から見ての話)した場合(そしてたいがいは問題なく終了する)の損得は得に大きく傾いています。

*1:直截な物言いをするとひどい人だと思われるから、婉曲的な言葉を選び、もろにいい気味だとは言わないわけですが、わかりやすく書いておきます。

*2:あと、ひどいことやってみんな共犯者ってのは、グループの結束を固める良い手段じゃなかったかなと思いますが、その辺言い始めるとキリがないのでやめておきます。